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神戸地方裁判所 昭和45年(わ)543号 決定 1973年5月10日

主文

被告人柴田正明を懲役六年に

被告人脇山三喜夫を懲役四年六月に

被告人田中始を懲役四年六月に

被告人齊本千昭を懲役三年八月に

被告人前田満久を懲役三年に

被告人橋本渉を懲役三年六月に

被告人井上彰を懲役一二年に

被告人山口修を懲役一年二月に

被告人平原司を懲役一年六月に

被告人姜成守を懲役二年に

それぞれ処する。

未決勾留日数中、被告人柴田正明・同脇山三喜夫・同田中始・同前田満久・同橋本渉に対しては各四五〇日を、被告人齊本千昭に対しては四〇〇日を、被告人井上彰に対しては八〇〇日を、被告人山口修・同平原司に対しては各三〇〇日を、被告人姜成守に対しては一五〇日をそれぞれその刑に算入する。被告人山口修に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人井上彰から押収してあるくり小刀一本(昭和四六年押第二〇号の1)を没収する。

訴訟費用中証人三島守に支給した分は被告人齊本千昭の負担とし、証人岡崎修(第四回公判期日に出頭した分、以下同趣旨で数字のみを示す)、同池田政信(六、七、三七)、同島崎密明(七、一〇、一一)、同上村隆弘(一一、一三)、同掛川原勉(一七)、同堂本朋一(一七、一九)、同今川幸生(二一)、同矢内弘毅(二三、八〇)、同中村邦男(二五、二六)、同黒木隆(二九)、同水下明(三一、三三)、同榎本久之(三三、三五)、同井原久(七二)、同寺村崇(七二、七四)、同片桐義雄(七四、七八、八〇、八一)、同長本実(七九)、同山口勝美(八一)、同谷本安太郎(八一)、同河島辰男(八二)、同石川智(八二)、同中西弘文(八四)、同前田貢(八四)に各支給した分は被告人柴田正明、同脇山三喜夫、同田中始、同齊本千昭、同前田満久、同橋本渉、同井上彰、同山口修の連帯負担とし、証人藤井清右(九五)、同井ノ元正男(九六)に各支給した分は被告人柴田正明、同脇山三喜夫、同田中始、同齊本千昭、同橋本渉、同井上彰、同平原司、同姜成守の連帯負担とし、証人菅野雅之(八九)に支給した分は被告人柴田正明、同脇山三喜夫、同田中始、同齊本千昭、同前田満久、同橋本渉、同井上彰、同平原司、同姜成守の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人柴田正明は山口組系暴力団柴田組の組長、同大野清こと姜成守はその舎弟、同脇山三喜夫は若者頭、同次郎こと田中始は若者頭補佐、同齊本千昭、同前田満久、同橋本渉、同井上彰、同平原司、同山口修は組員であるが、柴田組ではその資金源として、組員やその妻らの名義で神戸市兵庫区福原町内の通称「福原」の中心部において、スタンド「レツド」(経営者名義・被告人橋本渉、以下かつこ内は経営者名義)、スタンド「千昭」(被告人齊本千昭)、スタンド「ブラツクキヤツト」(被告人平原司)、スタンド「萩」(被告人柴田正明の妻柴田京子)等のスタンドを経営し、これらの店では風俗営業の許可を受けていない店でも(例えば「レツド」)法令により許されない接待行為をし、またその許可があつても、いわゆる青空女給・キヤツチガールらを使つての暴力的な客引き、あるいは客に法外な代金(例えばビール一本五千円または一万円)を請求し、客が文句をいうとバーテン、ホステスらが暴力を振つて代金を取るなどし、前記組員らはこれらの店のバーテンをしたりあるいは右のような行為を取締る警察官に対する警戒(いわゆるしけ張り)などに当つていたものであるところ

第一、兵庫警察署福原派出所(神戸市兵庫区福原町二七番地所在)では、右のようないわゆる暴力バーに対する客からの苦情が続出したので、従来から取締に当つていた同派出所員に加えて、昭和四五年九月二二日から右兵庫警察署の保安課保安係から私服の巡査石原克巳、同島崎密明、同岡崎修および同署の直轄警ら隊から制服の江口巡査部長以下七名の警察官の応援を得て、取締および市民に対する広報活動を強化しており、かくて同月二四日午後九時過ぎごろ、同警察署保安課巡査石原克巳(当時二九歳)は、直轄警ら隊員四名と共に神戸市兵庫区福原町三五番地の一所在の前記「レツド」の取締に赴き、同店の表戸を開けようとして開かなかつたため、同じ建物のアパート元禄荘の入口から同店の裏口に回り、裏戸を開いて、同店にいたバーテン山口修に表戸を閉めて営業しないよう注意していたところ、被告人田中始は同店前に多勢の警察官がいることを聞いて駆け付け、同店前でそこにいた前記四人の警察官に営業妨害になるなどと食つて掛かり、間もなく表に引返して来た石原巡査を見つけ、「ぬすつとみたいに汚ないことするな。表から堂々と入らんかい」などと口汚くののしり始め、そこへ被告人柴田正明、同橋本渉、少し遅れて同齊本千昭が同所に駆け付け、同被告人らは被告人田中から石原巡査が土足で裏口から「レツド」に立ち入つた旨聞かされ、それに憤慨して「そんなの放つとけ、放つとけ。店をつぶす気やろ、つぶすんやつたら、つぶさんかい」などと毒づいていたが、それも間もなく石原巡査らが北に向つてその場を離れたため、前記四名の被告人らは「今度会うときにはこの世におらんぞ」と捨て台詞を浴びせて南に向つたものの、石原巡査から同組の死活にかかわる強硬な立ち入り調査をされたとして憤慨の念が治まらず、前記のごとく一たん別れた石原巡査に対し再び抗議しようと思い、前記派出所へ向う途中、同派出所に北接するスタンド「京」前路上で同派出所へ帰る石原巡査らを見つけ、事情を知つて駆け付けた被告人前田満久、同脇山三喜夫、前記姜成守も加わつて、石原巡査らを取り囲み、こもごも、「表から入つてこんかい」「一人でようけえへんのか」「いてもたる」などと怒号し、ことに被告人脇山において「うちの若衆を集めてお前らと勝負したろか」などと怒号し、被告人田中において同巡査を小突くなどしているうちにますます被告人らの興奮は高まつて行つたが、騒ぎを聞いた同派出所の池田、上村両巡査が出て来て被告人らをなだめた結果、一応石原巡査らは同派出所へ引き上げることができたものの、被告人柴田らはなおも石原巡査らのあとに続いて同派出所前に押しかけ、被告人柴田において同所公廨に押し入り、同所の長であると思つていた上村巡査に対し、石原巡査の措置を強く非難し、警察官から押し出されるようにして公廨から出た後も、被告人脇山、同田中、同齊本、同前田、同橋本らと一緒に同派出所前で、口々に裏から立ち入つたことをなじり、「今度来たらいわしてしまうぞ」などと怒鳴つておいて午後九時半過ぎ、同被告人らは同所を引き上げて西に向つたが、途中被告人橋本を叱責してしけ張りに着かせた被告人柴田はどうしても気が治まらず、被告人脇山、同田中、同齊本と共に同町所在福原サウナセンター前路上に至つたとき、右被告人三名に対し石原巡査に暴行を加えることを指示し、たまたま他の二名と共に同所へ通りかかつた前記平原司に対し、「保安がようけ出とるんや、早ようおれの家へ行つて井上を呼んでこい」と怒鳴りつけ、それに応えて行きかけた同人の態度が緩慢なことに激昂して「早よう行けというのがわからんのか」といいざま同人の頬を殴りつけ、前記「萩」の様子をみるためその場を去つたが、被告人脇山はこの様子から被告人柴田の意図を察し、呼ばれてすぐに同所に来た被告人井上彰に、警察官に傷害を与えることがあることを認容しながら前記派出所への投石を命じ、同所で被告人脇山から少し離れてこれを聞いていた被告人田中もあらためて被告人井上から被告人脇山の右命令を聞いた後、被告人井上に対し警察官に傷害を与えることがあることを認容しながら、むしろ見回りに来た警察の車に被告人前田と一緒に投石することを命じた。そこで、被告人井上は直ちに同所近くのニユートルコ湯の島前路上でしけ張をしていた被告人前田のところへ行き、「皆が頭へ来とる。皆がいてもたるというとる。うちの兄貴(被告人田中のこと)がお前らで石原をいわせいうとる。刺してしもたろと思うとるんや」といつて石原巡査を刃物で襲撃する決意を話し、被告人前田も「ビールビンで殴るか切つてやる」とそれに応じ、また、同町トルコ「源吉」前でしけ張中の被告人橋本はその場に来た被告人齊本から石原巡査に傷害を加えることになつたいきさつを聞いて自らもその決意をし、ここに、被告人柴田、同脇山、同田中、同齊本、同井上、同前田、同橋本の間に順次、石原巡査に暴行ないし傷害を加える旨の共謀が成立し、被告人脇山は近くの飲み屋「鳥源」に入つたが、被告人井上は「レツド」に行き、間もなく同店に来た被告人橋本から同被告人が山口修から借り出したくり小刀(昭和四六年押第二〇号の1)を受取り、ハンチングに包んで隠し持ち、被告人前田は近くでびん詰ビールを準備し、被告人田中、同齊本、同橋本らも思い思いにおおむね「レツド」前もしくは「源吉」前にいた。一方、午後一〇時少し前ごろ、前記指示をした後「萩」へ見回りに行つていた被告人柴田は、途中で勤務を終え兵庫署へ帰る直轄警ら隊員らを見つけたので、あとはむしろ保安係員の動向を知ることが大事だと思い前記派出所前に赴いたところ、丁度同所から出て来た石原巡査を見つけるや、憤激の念にわかに募り、「石原一寸来い」「裏口から入らんと表から入つて来い」「もう一ぺん店へ来い」などと食つてかかり、同被告人をたしなめる島崎巡査の肩越しになおも「制服で勤務せんと巡査か何かわからへん、私服だと危ない」などと食つてかかつていたところへ、まず前記「鳥源」から出て前記派出所の方へ向つていた被告人脇山、ついで騒ぎを聞きつけて駆け付けた同橋本、同齊本、同井上、同前田、同田中らが相続いで加わり、被告人柴田の言動に同調して「何ぬかすか」「おいやつたろうか」「こつちへこんかい勝負したる」などと罵声や怒声をあげ、これに対し警察官の方も前記石原、島崎両巡査のほか、岡崎巡査が派出所前に出、池田巡査が同所入口の所でそれぞれ警戒に当たるなど非常に緊張した雰囲気となつた際、石原巡査から約二メートル離れた派出所前掲示板南端付近に立ち、同巡査に対する攻撃の機会を窺つていた被告人井上は、被告人らの挑戦的な罵声に応答した石原巡査の言葉の内容が気に食わないとして激昂し、「やつてやる」と叫んで、右手にハンチングで隠し持つた前記くり小刀(刃体の長さ役一二・七センチメートル)を腰に構え、石原巡査に詰め寄るや、右小刀の刃を上向きに持ち替え、場合によつては死に至るもやむなしと決意し、小走りに同人の正面から体当りして同人の下腹部を一回突き刺し、よつて同日午後一一時三〇分ごろ、同町八九番地所在吉田病院において、下腹部刺創に基づく右総腸骨動脈並びに左右総腸骨静脈切損により失血死に至らしめて殺害し

第二、被告人柴田正明、同脇山三喜夫、同田中始、同齊本千昭、同前田満久、同橋本渉は、前記派出所勤務の警察官が、前記のように石原巡査を突き刺した前記井上をその場で殺人未遂現行犯人として逮捕しようとするのを認めるや、井上を逃亡させようと意思相通じ、被告人柴田にあつては井上の逮捕行為に着手している上村巡査に体当りし、その帯革をつかんで後方へ引つ張り、被告人脇山にあつては井上の逮捕行為に着手している掛川原巡査に対し、井上を逮捕させないため、井上の後方から同人に抱きついて引つ張り、井上の腕を出させないようにするなどして、右掛川原巡査の手錠が井上に掛からないようにし、被告人田中も被告人脇山同様「逃げえ」といつて井上の腕を引つ張つて、右巡査らの逮捕を妨害し、被告人橋本にあつては井上の逮捕に着手している上村巡査の後方から頭部を殴つたり、右巡査らの腰を引つ張つたり押したりして井上の逮捕行為を妨害し、被告人齊本にあつては井上の兇器を取り上げようとしている池田巡査の警棒を取り上げ、あるいは井上逮捕の妨害者を排除している島崎巡査を引つ張つたり押したり、上に飛び乗つたりして同巡査らの行為を妨害し、被告人前田にあつては右被告人らが逮捕行為を妨害している際、誰かが「道具を持つて来い」と二回程いつたのを聞き、直ちに前記「レツド」から模擬刀をもつてかけつけるなどし、もつて被告人らは共同して右上村巡査ら四名の巡査の公務の執行を妨害し

第三、被告人山口修は、前記第一記載の如く、井上が石原巡査を殺害するに際し、第一記載の九月二四日午後九時五〇分ごろ、橋本が井上と共に前記「レツド」の裏口から来て、同被告人に「小刀を貸してくれ」といつたので、これに応じて橋本か井上かが右小刀を喧嘩の相手を脅したり、刺したりするのに使用するものであることを知りながら、店の奥の棚に置いてあつたくり小刀(前記第一記載のもの)を取つて橋本に渡し、井上らの前記犯行を容易ならしめて、これを幇助し

第四、被告人井上彰は、業務その他正当な理由がないのに、前記第一記載の九月二四日午後一〇時ごろ、前記第一記載の福原派出所前付近路上において、刃体の長さが六センチメートルをこえる前記第一記載のくり小刀一本を携帯し

第五、

(一)、被告人姜成守、同田中始、同脇山三喜夫は、昭和四五年九月一九日午後一〇時ごろ、大坂栄一(当時二一歳)が、被告人井上彰とささいなことで口論したことを聞知して憤激し、被告人井上と共に右大坂かまたは大坂の勤めているニユートルコ新東洋の支配人菅野雅之から三、四万円を出させて結着を付けようとしていたところ、被告人井上と大坂の右口論を聞知した被告人柴田正明はこの際これを種にニユートルコ新東洋の経営者である千代甚八(当時四〇歳)から金員を喝取しようと企て、同日午後一一時ごろ、神戸市兵庫区西橘通二丁目一番地所在中島クリーニング店前付近路上に右千代を呼び出し、前記被告人らのほか、被告人平原司、同橋本渉も加わり、互に意思相通じ、千代に対し「うちの若衆と知つてやつたんか。茶わんとはしを取り上げるようなことをしたら辛抱せん」「いてしもたろか」「新生会からでもちよつとしたことで二〇万円をとつた」などと口々にいつて暗に話しの結着をつけるために金銭の交付を要求し、事の成り行きに驚いた右千代が、前記大坂を連れて翌二〇日午前一時ごろ、同区福原町四一番地の五先路上で待つていた被告人柴田のところへ行つて謝らせたがその謝り方が悪いと難癖をつけ、大坂に対し被告人姜および居合わせた前田満久が後記(二)、(三)のとおり暴行、傷害を加えたことがあり、この際右前田の行為によつて被告人姜が手に負傷し、また右前田も自傷したことからそのことにも因縁をつけて千代から金員を喝取する決意をますます固め、前同日午前三時ごろ、同区荒田町一丁目九五番地の一所在の被告人柴田方およびその付近の自動車内において、被告人柴田、同脇山、同田中、同橋本、同井上、同平原、さらに被告人齊本も加わり、前記大坂に対する暴行、傷害により畏怖している千代に対し、「お前を殺すのに二分もかからない。柴田組には気の短い若衆もいる。お前の命を狙うだけだ」「このおとしまえは人一人死んどつたら一〇〇万円が相場や、二人けが人が出とるんや、金でつけるんやつたら片手でつけてくれ」と金員の交付を強要し、もし右要求に応じなければいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ、よつて同日午前三時三〇分ごろ、被告人柴田方において、同人から現金五〇万円の交付を受けてこれを喝取し

(二)、被告人姜成守は、前同日(二〇日)午前一時ごろ、前記福原町四一番地の五先路上において、大坂栄一の顔面等を手拳で数回殴打して暴行を加え

(三)、被告人前田満久は前同時刻ごろ、前同所において、右大坂の大腿部等をくり小刀で数回突き刺し、よつて同人に対し全治約一〇日間を要する両大腿部切創の傷害を負わせ

第六、被告人齊本千昭は、神戸市兵庫区福原町四三番地の六所在スタンド「プリンス」のバーテンをしていたものであるが、

(一)、昭和四五年四月二九日午後一〇時三〇分ごろ、同店において、ビール二本オードブル等を飲食した客の三島守(当時三〇歳)が右代金である一万五百円の請求に対し、不当に高いといつて応じないことに立腹し、同店営業責任者宋和子(当時二三歳)と意思相通じ右三島に対し、こもごも手拳や平手で同人の顔面を三回位殴打し、もつて数人共同して暴行を加え

(二)、右暴行で飽き足らない同被告人は、前記三島守を他所へ連行してさらに暴行を加えようと企て、同日午後一一時ごろ、前記「プリンス」前路上において、丁度通りかかつた顔見知りの通称えいじ(二〇歳ぐらい)と意思相通じ、前記暴行により畏怖している右三島を無理に普通乗用自動車後部座席に乗車させて発車し、同所から約一〇・五キロメートル離れている同市同区下谷上中一里山四番地の一先広場まで右自動車を疾走させて同人を同車から脱出することを不能ならしめ、もつて右の間同人を右自動車内に不法に監禁し

(三)、同日午後一二時前ごろ、前記広場において、前記通称えいじと意思相通じ、前記自動車から降りた前記三島守に対し、右えいじにおいていきなり同人の股間を蹴り上げ、さらにこもごも手拳で同人の顔面、頭部、腹部等を殴打し、倒れた同人の身体を踏んだり足げにするなどの暴行を加え、よつて同人に対し加療約一四日間を要する頭部打撲、顔面打撲裂創等の傷害を負わせ

第七、被告人齊本千昭は、同区福原町四三番地の六において、飲食店「アモーレ」を経営していたものであるが、兵庫県公安委員会の許可を受けないで、昭和四五年六月一三日ごろから同年六月一九日までの間、右店舗内に設けた客席において、宮坂行男ら多数の酒客に対し、従業婦福谷ツワエらを接待させ、ビール等の酒肴を提供して遊興、飲食させ、もつて設備を設けて客の接待をして客に遊興、飲食させる営業をし

第八、被告人田中始は、昭和四五年六月二五日午後九時ごろ、同区福原町三五番地の六所在スタンド「おけいちやん」前附近路上において、前記「ブラツクキヤツト」の従業婦川崎加津子こと川崎春美が、前記福原派出所勤務巡査服部薫(当時二三歳)から、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例違反の現行犯人として逮捕されつつあるのを認めるや、右川崎を逃亡させようと企て、右服部巡査と川崎の間に割り込み、右両者を引き離すなどして、その逮捕行為を妨害し、もつて暴行を加えて、服部巡査の職務の執行を妨害し

第九、被告人齊本千昭、同平原司、同姜成守は共謀のうえ、昭和四五年七月二七日午前零時三〇分ごろ、同区福原町四四番地の二所在スタンド「ブラツクキヤツト」(経営名義平原司)で飲食した高松敏郎(当時三三歳)が飲食代金が高いといつて一部しか支払おうとしないことに立腹し、同人を同町四一番地所在共栄ガレージ裏路上に連行し、同所において、こもごも手拳で同人の顔面等を数回殴打し、倒れた同人の背中、足等を数回足げにし、もつて数人共同して暴行を加え

第一〇、被告人平原司、同姜成守は福谷ツワエと共謀のうえ、兵庫県公安委員会の許可を受けないで、昭和四五年七月二四日ごろから同年一〇月一〇日ごろまでの間、前記第九記載のスタンド「ブラツクキヤツト」店内に設けた客室(約一五平方メートル)において、小倉秀次郎ほか多数の客に対し、ビール、洋酒、料理等を提供して飲食させ、右福谷および藤吉ヒロ子において接待し、もつて設備を設けて客の接待をして客に遊興、飲食させる営業をし

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯前科)

一、被告人柴田は、昭和四一年一一月二九日大阪高等裁判所で暴行、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の罪により懲役四年に処せられ、昭和四五年四月二八日右刑の執行を受け終つたものであつて、右事実は同被告人の司法警察員に対する昭和四五年九月二七日付供述調書および前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人柴田、同脇山、同田中、同齊本、同前田、同橋本、同井上の判示第一の所為は刑法六〇条、一九九条に該当するが、上記中被告人井上を除くその余の被告人らは傷害もしくは暴行の意思で共謀したものであるから、同法三八条二項により同法六〇条、二〇五条一項の罪の刑で処断すべく、同被告人ら(被告人井上を除く)の判示第二の所為は一罪として同法六〇条、九五条一項に、被告人山口の判示第三の所為は同法六二条一項、一九九条に該当するが同被告人は傷害の意思で幇助したものであるから、同法三八条二項により、同法六二条一項、二〇五条一項の罪の刑で処断すべく、被告人井上の判示第四の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三二条二号、二二条に、被告人山口、同前田を除くその余の被告人らの判示第五の(一)の所為は刑法六〇条、二四九条一項に、被告人姜の判示第五の(二)の所為は同法二〇八条、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号、刑法六条に、被告人前田の判示第五の(三)の所為および被告人齊本の判示第六の(三)の所為はいずれも刑法二〇四条、前同罰金等臨時措置法三条一項一号、刑法六条(なお被告人齊本についてはほかに同法六〇条)に、被告人齊本の判示第六の(一)の所為および被告人齊本、同平原、同姜の判示第九の所為はいずれも刑法六〇条、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、前同罰金等臨時措置法三条一項二号、刑法六条に、被告人齊本の判示第六の(二)の所為は刑法六〇条、二二〇条一項に、同被告人の判示第七の所為および被告人平原、同姜の判示第一〇の所為は風俗営業等取締法七条一項、二条一項に(なお被告人平原、同姜についてはほかに刑法六〇条)に、被告人田中の判示第八の所為は刑法九五条一項にそれぞれ該当するので、判示第一(ただし被告人井上のみ)、第二、第四、第五の(二)、(三)、第六の(一)、(三)、第七、第八、第九、第一〇の各罪については関係被告人全部につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人柴田には前記の前科があるので、同被告人に関する各罪につき刑法五六条一項、五七条により、なお判示第一の罪については同法一四条の制限内で、それぞれ再犯の加重をし、被告人柴田、同脇山の判示第一、第二、第五の(一)の各罪、被告人田中の判示第一、第二、第五の(一)、第八の各罪、被告人齊本の判示第一、第二、第五の(一)、第六の(一)ないし(三)、第七、第九の各罪、被告人前田の判示第一、第二、第五の(三)の各罪、被告人橋本の判示第一、第二、第五の(一)の各罪、被告人井上の判示第一、第四、第五の(一)の各罪、被告人平原の判示第五の(一)、第九、第一〇の各罪、被告人姜の判示第五の(一)、(二)、第九、第一〇の各罪は、いずれも刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により被告人井上、同柴田、同脇山、同田中、同齊本、同前田、同橋本については最も重い判示第一の罪の刑(井上については同法一九九条の罪の刑、その他の者については前記のとおり同法二〇五条一項の罪の刑)に同法一四条の制限内で、被告人平原、同姜については最も重い判示第五の(一)の罪の刑に、なお被告人平原については同法四七条但書の制限内で、それぞれ法定の加重をした刑期の範囲内で、また被告人山口については従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中主文掲記の日数をそれぞれその刑に算入し、被告人山口修に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、押収してあるくり小刀一本(昭和四五年押第二〇号の1)は判示第一の殺人の用に供した物であるとともに判示第四の罪を組成した物で、被告人井上彰の所有に属するので、同法一九条一項一号、二号、二項を適用して被告人井上彰からこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により主文掲記のとおり各被告人らに負担させる。

(弁護人の主張に対する判断)

被告人山口の判示第三の所為に対し、同被告人の弁護人は、同被告人は適法行為に出る期待可能性がないと主張している如くであるが、同被告人の所為は判示認定のとおりであり、かつ、同被告人と橋本、井上は、同人らの所属する暴力団において身分上、上下の関係にはないので、橋本らの要求を拒む期待可能性がないとはいえず、右弁護人の主張は採用できない。よつて主文のとおり判決する。

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